「なんだろ、これ」
初音は匂いを追ってたどりついたその場所で、しばし惑った。
意外な場所にたどりついたからだ。
ゴーストタウンのような倉庫街を抜けたそこは、不夜城のように輝くビルディングだった。
「ばーさくてっく?」
バーサクテック社・日本支社ビル。
「ここって、確か……」
いちおう中学生である初音は、社会科の授業で最近その名前を教わっていた。バカに見えて、実はそんなに成績は悪くない初音はそれを思い出した。
「世界中に飛行機や船を売ってるおっきな会社だっけ……」
正確には、戦闘機や軍艦、戦車やミサイルなど、ありとあらゆる兵器を扱う軍需産業の多国籍企業体(コングロマリット)だ。
日本も自衛隊がここから大量の武器を購入している。縦濱は、海自の基地のある縦須賀にほど近いため、支社があるのだろう。
「なんでこんなところが……」
ナオミの臭いとつながっているのか。
その答えは数秒後に明らかになった。
「なんだかしけたトコだなぁ」
コンテナの上をふわふわ飛びながら薫がつぶやく。その周囲を明が憑依したフクロウが飛び回っている。
『このあたりでナオミさんの匂いを見つけたらしいんだ』
「ちょっと待って、読んでみる」
紫穂が地面に手をあてる。紫穂はその場所で過去起こったことを透視することができる。リーディングと呼ばれる能力だ。
「初音ちゃん、このあたりで何か見つけたみたいね。すごく興奮してるし、悩んでる」
「なに見つけたんかな」
葵はメガネを指でおさえて目をこらしたが、周囲が暗いから、結局何も見えない。
「ナオミさんの匂いを見つけただけだったら、応援を待っていてもよかったはず。もっと何か決定的な手がかりを見つけたはずよ」
「なあ、紫穂、ナオミちゃんの手がかりは見つけられないのか?」
「匂いと違って、残留思念の拡散は早いの。それに思念そのものが弱い場合はムリね」
紫穂が残念そうに言う。レベル7のサイコメトラーとはいえ、万能ではない。
「なあ、あっちの方にすごい建物あるんやけどねなんやろ?」
葵がコンテナの山の間から顔を出している高いビルを指さした。周囲にほとんど建物がない分、やたらと目立つ。月が隠れていても、完全な闇ではないのは、そのビルの明るさのためでもあった。
「縦濱名物マリンタワー、だっけ?」
薫が知りもしないくせに適当なことを言う。
「違うわよ。有名な会社の日本支社よ。バーサクテックって知らない?」
紫穂の説明に反応したのは明だ。
「えっ? あの、戦闘機とか戦艦とか原潜とか空母とか作ってる?」
「そうよ。小銃から戦術核ミサイルまで扱ってる兵器のデパートね」
「すっげー、F-25 ファイヤーウォンバットとか、空母ミニッツとか、プラモ作ったなあ……すっげー」
「なんで男の子って、戦闘機とか戦艦とかに夢中になるんやろ」
葵が肩をすくめる。
「ってことは、あっち方面ってことはないよな、さすがに。警備員とかもいるだろーし、アジトを構えるには向いてねーよな」
「そうね、こっちの方をまずは当たってみましょ」
紫穂はバーサクテック社とは逆の方向に歩き出す。
明は少しだけ名残惜しそうにその巨大なビルを見やった。
フクロウになった明の視力は人間の比ではない。それでも、警備員たちによって包囲され、抵抗むなしく気絶させられた初音の姿を見いだせるほどではなかった……
つづく
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