長岡芳樹は八十八学園の写真部の部長だ。
――と言っても部員も芳樹ただ一人。ただ一人だけの部活である。
もっとも、それは決して芳樹にとって悪いことではない。部活動に対してはたいへん寛大な八十八学園は、写真部のためにも部室を与えてくれている。いわば、芳樹の城だった。
その日の放課後も、芳樹は部室の現像室で長い時間を過ごしていた、
赤い光に包まれ、現像液の匂いを嗅ぎながら、印画紙に定着していく花園を見守るのが芳樹の生き甲斐だった。今日の成果もなかなかだ。
水野友美、篠原いずみ、南川洋子といった八十八学園が誇る美少女たちのパンチラの数々。体操服にブルマー、水着もある。変態とののしられようが、3メートル以内に入ると妊娠するとそしられようが、芳樹にとってのこれは聖なる仕事だった。
「そして、今日のハイライト……じゃああーん」
芳樹の声は熱に浮かされたようにうわずっていた。現像液から取り出した印画紙にキスをするかのように唇をとがらせる。そこには、リボンの似合う美少女が突然の風にスカートを押さえているシーンが写っていた。
「やっぱり、唯ちゃんが最高だなぁ……ぐふっ、ぐふふふふ」
*****
「唯の写真を撮りたいの?」
本当はたぶんかなり長いだろう髪を左右でまとめ、大きなリボンで結わえた、目の大きな少女が、不思議そうな表情を浮かべた。
「うんっ、ぜひ!」
芳樹は土下座せんばかりの勢いで言った。
少女の名は鳴沢唯。芳樹の同級生だ。
「でも、唯、可憐ちゃんや友美ちゃんみたいに可愛くないし、スタイルもよくないよ?」
可憐というのは舞島可憐――芳樹たちのクラスメートにして現役の人気アイドルのことだ。友美はもちろん水野友美――クラス委員長で唯とは家も隣同士だ。
たしかに唯はモデル体型というよりは、柔らかみを帯びた女の子らしい身体つきだ。といって、とりわけ巨乳というわけでもない。
しかし、女の子にとって理想体型と男が望むそれとは実は隔たりがある。唯の体型はたぶんほとんどの男にとって最高のものだ。唯にはその自覚がまったくないようだ。
芳樹はひたすらに説いた。唯がいかに健康的で自然な美しさに満ちているか。美の女神を目の前にしたかのように賛美し尽くした。
「どおしようかなあ……」
すこし考えている様子だった少女は、芳樹のひたむきな表情を見て、くすっと笑った。
その笑顔は、しかし、ふつうの女生徒が芳樹にむける蔑みの表情ではなかった。もっとやさしくて、もっとあたたかい。変態カメラ小僧と呼ばれている(事実だが)芳樹に対しても、唯はその明るさを分け与えてくれる。
こんなにかわいい女の子にいやらしいことなんてできるわけがない。
「ボク、純粋に、唯さんの美しい瞬間を記録したいんですっ!」
本音だった。それは、唯にも伝わったようだ。
「そんなに言われたら、断れないなあ……ちょっとだけなら、いいかな」
「やったー!」
芳樹は肥った身体をねじって昇竜拳を放った。
写真部が使っている部室には、ちょっとした暗室と、機材などを保管する倉庫が隣接している。倉庫には芳樹が持ちこんだソファと冷蔵庫があり、たまに芳樹はここで寝泊まりすることもあった。投稿雑誌の締め切り前や、パンチラ同人誌の入稿前などだ。
だから、そこを撮影スタジオにすることにはあまり違和感はなかった。学校内だから、唯も安心しているようで、かんたんについてきた。
もともと唯は素直で人を疑うことを知らない。今日は好都合にも、いつも唯につきまとっているりゅうのすけがいない。りゅうのすけというのは、八十八学園随一の問題児で、唯と同居している男だ。唯の母親とりゅうのすけの父親の間で事情があって、同居しているらしい。
唯が同い年のりゅうのすけことを「おにいちゃん」と呼んで慕っているらしいことは、唯をストーキングし続けていた芳樹にとってはすでに既知の情報だ。
だが、りゅうのすけは学園始まって以来というくらいの女好きで、学園中の女の子の尻を追いかけ回っている。今日も、友美やいずみ、洋子といったあたりとフラグを立てようとウロウロしているのだろう。
「へええ……新聞部の部室って、いろいろあるんだね」
壁に貼ったダミーの風景写真(写真雑誌から切り抜いてコピーした)や、ポスターを眺めながら、唯が感心したように言う。
芳樹は冷蔵庫から缶ジュースを取り出し、紙コップに注いだ。
「さ、唯さん、飲み物でも飲んで、くつろいでくだいね……」
「あっ、ありがとう。喉がかわいてたんだ」
コップを受け取り、ソファに腰掛けると唯はこくこくと喉を鳴らしてジュースを飲み干す。
「ん……なんだか不思議な味がするね?」
「おいしくなかったかい?」
「ううん、おいしかったよ。おかわりもらっていい?」
「もちろん」
芳樹は目を細める。
実は、このジュースには度数の高い焼酎が仕込んであった。
酒を飲ませたのには、確固たる計算があったわけではない。
芳樹としては、唯のガードを下げるための工夫のつもりだった。なにか言われたら、リラックスするためだよ、とかなんとか理由をつけてごまかすつもりだった。
この時までの芳樹のイメージでは、せいぜいパンチラとか、ふとももの露出とか、うなじの接写とか、それくらいだった。だが、アルコール入りのジュースを飲んだ唯は、しばらくして、一変した。
どうやら極端に酒に弱い体質だったようだ。しかも、気持ちが悪くなるとか、そっちではなく――
「らによー、もっとちょうだいよー、おしゃけー」
すでに半酔眼となった唯がソファーに片膝立ちで座っている。とっくにジュース割りなどではなく、ストレートになっている。
焼酎だから25%くらいのアルコール度数だ。それをさっきからグイグイ飲んでいる。
どうやら、飲むと大胆になるタイプらしい。
片膝をたてているので、パンティがまる見えだ。しかも、酔いのために頬が上気し、目はうるんでいる。
芳樹は酒を注いでは写真を撮り、また注いではシャッターを押した。
完全にできあがった唯はしのび笑いをはじめた。
「んふ、んふふふふ、あは、あははははは」
もう酩酊している。眠りこむのも時間の問題だ。
芳樹はふと思いついて、棚の奥に隠しておいたビデオテープを取りだし、デッキにかけた。
「ね、唯ちゃん、ちょっとこれ観てみてよ」
「んー?」
再生されたのは、アダルトビデオだった。それも、無修正のやつだ。暗い、ちょうど芳樹たちがいる部屋にそっくりな場所で、女の子が裸でもだえている。いわゆるハメ撮りというやつだ。結合部分が鮮明に映っている。
この手のビデオの収集にかけては芳樹は八十八町でもトップクラスだと自負している。
「やだあ、なにい?」
声をあげつつも、唯はしっかりと画面を見ていた。興味はやっぱりあるらしい。
唯の息が速くなっていた。ソファの上で腰をもじもじさせている。
「唯ちゃんもしてみる?」
「やーだ」
「ぼくはなにもしないよ。唯ちゃんの好きなやつといっしょにいるところを想像してごらんよ」
「えっ」
唯の顔が赤くなり、まばたきの回数がふえた。誰のことを思い浮かべたのかについては、芳樹はあえて想像しなかった。自分でないことだけは間違いない。
「そんなの恥ずかしくて、できない」
「ここにはだれもいないよ」
芳樹は努めて猫なで声を出した。
「でも……」
「さ、ソファに横になってごらん。撮影だったら、ポーズをとるのはあたりまえだよ」
シャッターを押しつづけながら、芳樹はうながした。唯が従うそぶりを見せたので、思わず股間が熱くなる。
唯はソファにうつぶせになった。制服のスカートがめくれて、おしりの山の下半分がのぞいている。
「ん……う」
唯の腰が動く。無意識の行為らしい。股間のふくらみを、ソファの布地にこすりつけているのだ。
つづく
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