「敵はバーサクテックだってぇ!?」
皆本の元に再集合したザ・チルドレンと、小鹿、明のザ・ハウンドは、皆本から作戦対象を聞かされて絶句した。
「じゃっ、じゃあ、初音は今……」
明が勢い込んで、すぐにもバーサクテックビルに向かおうとする。
「待つんだ、明くん」
皆本が制止する
「なんで止めるんだよ、皆本」
「せや、敵がわかったんやったら、一気に乗り込んだらええんちゃう?」
薫と葵も勢い込む。
「危険があるのね、皆本さん」
紫穂が静かに指摘する。皆本はうなずく。
「敵は、対エスパー戦のプロだ。真っ正面から行っても殲滅されるのがオチだ」
「でもっ! あそこにはナオミちゃんや初音が捕まってるんだろ!?」
薫が激した様子で言いつのる。薫なら、一気に能力を解放して、ビルごとへし折りかねない。
だが、そんなことをしたら――
「薫――この戦いに超能力は使えない。いや使ってはならないんだ」
皆本の沈痛な言葉に薫はショックを受ける。
「な、なんでだよ! あたしの能力を見くびってんのか」
超能力を否定されたと思ったのだろう。子供っぽい不満を爆発させる。
「そうじゃない。薫や、葵、紫穂――強力な超能力を持っていればいるほど、今回の戦いでは不利になるんだ」
「たしか……バーサクテックにはECM開発部門もあったわね」
紫穂が何か思いついたように言う。
「わたしたちの知らない、新型ECMがあるとか?」
「そうだ。まだ推測の域を出ないが、旧日本軍が研究していた極秘プロジェクトのひとつに、E-ECMというものがあったらしい」、
エスパーの能力は、脳内における電気の流れ、すなわち脳波が異常昂進した状態――ESP波の発動による。通常のECMはそのESP波を打ち消す波を送り出すことによって成立する。だが、このExtra-ECMは、エスパーの脳内にESP波の働きを狂わせる付加情報をつけくわえることで、その能力を違ったものにねじ曲げてしまうのだ。
「なんやて……テレポートはちょっとでも座標演算が狂ったら、とんでもないことになってまうのに……こわぁ」
葵の顔が青ざめる。テレポートで壁に閉じ込められたり、地中に埋まってしまったり、さまざまな危険が予測される。
「実際、どんな作用をするかはわからないんだ。その研究は未完成状態で終戦を迎えたから……ただ、それをバーサクテック社が研究員ごと取り込んで、数十年かけて完成させていたとしたら……」
「その研究員って? まだ生きてるの?」
紫穂が問う。
「蕾見管理官によれば、その研究の中心人物は旧日本軍・超能力開発研究所・特別研究員、鎌切十四夫。生きていれば九十歳らしい」
「まあ、人工的に超能力者を作り出すための研究の副産物だの。もちろん、実用化は容易ではなかった。数多くの超能力者を実験台にした。大半が廃人になったがの……
でも、それだけの価値はあった。単にESPを無力化するECMでは防御はできても攻撃はできない。それじゃあ兵器としては売れん。それに、原理が簡単すぎて対抗措置も容易だ。
その点、わしのE-ECMは違う。超能力者の能力そのものを逆手にとってしまう。脳内の生存本能中枢に働きかけて、自殺するように仕向ける。そうすれば、超能力者どもは自分の能力で仲間を傷つけたあげく、自殺してしまうという仕組みだ。
その実験はかなりうまくいきかけたのだが……ひとつ誤算があった」
車椅子のやせこけた老人・鎌切は、そこまで言うと、のびているチューブのひとつをくわえ、ぢゅぢゅぢゅと吸い上げた。
「むふぅ……新生児から取り出した濃度の高い成長ホルモンはやはりいいのぅ」
そうつぶやくと、「テープレコーダー」への口述を再開する。どうやら、最新式のボイスレコーダーなどはお気に召さないらしい。
「この干渉波は、超能力者の女には強力な催淫効果があったのだ。まったく意外だったし、最初は使い道に困った。だが、うまい使い方が見つかった。これによって、超能力者の男どもは激高し、普通人の男を殺し、女を犯すようになるだろう。そうなれば後は勝手に憎しみが連鎖し、よい塩梅で火の手があがることじゃろう。楽しみ、楽しみ……」
つづく
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