桜高軽音楽部活動記録・いけないライブハウス!(3)
「へええ、ほんとうに四人とも可愛いんだな」
サングラスの男が、律たち四人を出迎えて感嘆の一言。
「いやあ、そんなことあるっす!」
律はすっかり男となじみの口調でおどけてみせる。
このサングラスの男は呉竹といい、このライブハウスの雇われマネージャーだという。
「もうすぐ、店のオーナーとか出資者の人たちとか来るから。それまで、楽屋でジュースでも飲んでて。お手洗いも専用のが隣にあるから」
そう言われて、店の奥の控え室に移動する律たち。まるで芸能人のような扱いに唯などはすでにスキップ気分だ。
「なんか、すごいねぇ、楽屋だってぇ」
壁に鏡が張られ、かんたんなドレッサーが設置されている。大きなテーブルがあり、パイプ椅子がいくつも置かれている。呉竹の心遣いか、ポットに入れたお茶やジュース、お菓子の類が用意されている。
すぐ隣にはシャワールームとトイレもある。ライブ後に汗を流すこともできるようだ。
「ライブステージもいい感じだったしょ?」
楽屋に落ち着くと、律は『自分が見つけました』ふうに胸を張る。
「ほんと、すべてが小作りで可愛い」
紬も目を輝かせている。たぶん、紬が知っているのは大ホールの楽屋なのだろう。
「わたしたちみたいな素人が、こんなところで演奏するなんて……いいのかな」
澪がびくびくした様子で言う。
「何いってんの、こんなの第一歩でしょーが。あたしらの目標は、目指せ、武道館!」
地元のライブハウスでのデビューくらい、どってことない、という律のテンションに引っ張られて、
「そ、そうだな」
とうなずく澪。
「で、歌詞はできた?」
「え? あ……」
カバンを抱きしめる。
「い、いちおう……は」
「おーっ、見せて見せて!」
唯が飛びついてくる。
「ボーカルは唯だったよなー、ぶっつけで歌えんの?」
律がまぜっかえすように言う。
「今日は練習だから大丈夫だよ。それに、歌詞がわかんなくなったらテキトーに歌うし」
「あらあら」
「おい、徹夜で描いてきたわたしの立場はどうなる」
「だから、早く見せて、澪ちゃん」
唯が澪にせがむ。仕方なくノートを取り出す澪。ノートを取り囲む唯、律、紬。
そして起こる笑い声。恥ずかしがる澪。
「いつも思うけど、澪のセンス、すげーよなー」
「えー、でもかわいい詩だよ-」
「女の子っぽくて私も好き」
「でもさ、この詩の通りだと、初デートで最後までいっちゃってるんじゃない? あなたの腕に抱かれて夢見るの、とかさ。二番じゃモーニングコーヒー飲んでるし」
「そっ、そういう意味じゃない……」
真っ赤になる澪。
「でも、こんな感じ?」
唯がギターを構えて、歌い出し部分をジャカジャカ鳴らす。
「あなたとトキメキ初デート♪ なに着ていこうか迷っちゃう♪」
律がテーブルをとんとこ叩く。
紬もキーボードの弾きまね。
「うきうきラバーズ ひゅーひゅーひゅー♪」
コーラスだ。
「いいんじゃない?」
「うん、いいカンジ」
「実際の楽器で合わせるのが楽しみ」
三人が澪を見る。
「みんな……」
顔を赤らめて半泣きだった澪も、詩が受け入れられたとわかって、ホッとした様子だ。
「じゃあ、さっそく……」
と律が言うと、澪は勢い込んで、
「練習か?」
と立ち上がりかけたが、
「お菓子いただこうぜ」
に、ずっこけた。
つづく
「けいおん!」同人誌
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