思い通りに指が動き、自ら奏でた音がPAで増幅され、空気の振動となって全身を包む。
唯の音が食い込んでくる。特訓したリフだ。うまくなっている。股間に音が刺さるような感覚にぞくぞくする。
紬のメロディが背筋をなでる。優しく、怪しく、上下に行き来する。まるで紬の手が這い回っているようだ。
唯のボーカル。歌詞は間違いだらけだ。だが、もうそんなことはどうでもいい。唯のファニーボイスが脳を痺れさせる。唯も楽しそうに歌っている。
ライトが白熱度を高める。暑い。いや、熱い。だが、心地の良い熱さだ。
前から、後ろから、上から、下から。
ライトに射貫かれて、紬の身体のシルエットがあらわになる。澪は一瞬、目の錯覚かと思った。豊かな胸も、大きめの乳輪も、その真ん中の突起も、見て取れたのだ。それだけではない。くびれたウェストから腰にかけてのラインも裸のそれのようになまめかしく見えた。
唯もだ。ドレスの生地が透けて、幼児体型のシルエットがわかる。子供っぽいくせにエッチっぽい丸いヒップが、曲の振りに合わせて左右に揺れる。Tバックなのがわかる。
律は。ドラムセットに隠れてよく見えない――かと思いきや、ステージのバックのモニターがいつの間にかオンになっていて、律の姿を映している。しかも、演奏のためにひろげた脚の間をねらっている。白い太股とその奥の黒い下着がばっちり見えている。
画面が切り替わる。自分だ。澪は自分の着ているものが、ライトの透過によってほとんどスケスケになってしまうことに初めて気づいた。胸が――ブラジャーの上半分がないデザインのせいで、乳首も丸見えだ。
「ひ」
羞恥のあまり、しゃがみこみそうになる。だが、演奏は続いている。最高の演奏だ。唯も、紬も、律もトランス状態。それを壊したくない。澪はベースを抱えるようにして演奏だけは続けながら、律の方に近づいていった。もちろん、演奏を中止して、撤収するためだ。このステージは明らかに異常だ。おもえば、澪の体調の変化もおかしい。いくら最高の演奏ができても、こんなふうになるはずがない……こんなに気持ちよくなるはずが……
サビだ。唯が声を張り上げる。澪はコーラスだ。合わせなきゃ、と思ってしまう。だが、ステージで身体をさらせば、裸を見られるのと同じだ。
唯が澪を振り返る。来て、と目が言っている。最高に幸せそうな表情だ。紬も、律も澪をうながすように視線を向ける。
その一体感に、澪の心がとろけ、羞恥を喜悦が押し流した。
唯のスタンドマイクに駆け寄り、声を合わせる。
観客席に目をやる。男たちは夢中で手を叩き、飛びはね、演奏に熱狂している。いや、熱狂しているのは澪たちの身体に対してだ。熱っぽい視線と歓声。
ライトが全身を貫く。澪は、ほとんど全裸をさらしている自分を自覚する。見られている。
頭の中が真っ白になる。澪は音と光の中で、達してしまう。
唯の声が途絶えた。そのかわり、柔らかくて温かいものが肩によりかかってくる。唯だ。幸福そうな顔をしている。
「澪ちゃん……あたし……いま……いっちゃった……」
「ちょっ、唯」
と同時に。
観客席の男たちが奇声とともにステージに駆け上がってきた!
つづく
「けいおん!」同人誌
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