MA-YU 学園編4 「かぶらぎ、せんせい」 7
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「わたしは片親でね。家も貧しかったんだ」
まゆが落ち着いた頃を見計らい、鏑木は語り出した。コーヒーは二杯目だ。
「だから、医師になるなど夢のまた夢だった。だから、学生時代はちょっと荒れていた時期があってね」
鏑木の顔に影が差す。まゆは先週、チンピラたちと鏑木が立ち回りを演じていたのを思い出す。
「警察のお世話になることもあったんだ。まあ、たいしたことではないけれど」
たいしたことがない――のではないのではないか。
「そんな時にある人と知り合ってね。いろいろお世話になったんだ。学費の援助もしてもらったり――」
「とても親切な人なんですね……」
まゆは神村のことを思い出す。神村もまゆの進学や沢の就職のために骨を折ってくれた。
「だから、恩を返さなくてはならないと思っている。七瀬さんがその神村という人に感じている感情に近いかもしれない――いや違うな。わたしの場合はその人たちに好かれているわけではないしね。だから、よけいにきみがうらやましいよ」
鏑木が真顔で言うのでまゆは困ってしまう。
そろそろ髪も乾いてきた。乾燥機に入れた制服もそろそろ乾いたのではないか。
よくよく考えたら、ワイシャツ一枚で、その下は下着も着けていない。
無防備だ。
だが、鏑木には全裸を見られている。それどころか、秘められた性器の内部まで。
医師なのだ。だから安心していた。いや、安心というのとは違う。嫌悪や恐怖を通り越して、馴れてしまった。
だが、研究室ではなく、鏑木の自宅で二人きり、となると雰囲気が違う。
しかも、つい今まで、まゆは自分の性体験を赤裸々に語ってしまっていた。
思い出してしまう。
ちょうどこんなソファに上で、まゆは神村にだっこされて――
つづく
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