10
「まだ帰ってないのか」
アパートの部屋で良明は独りごちた。もうすぐ午後八時を回ってしまう。今時の女子中学生なら平気で出歩いている時間かもしれないが、まゆは違う。どんなに遅くても七時には帰っていて、良明のために夕食を作ってくれていた。最近は良明の帰宅が遅く、その料理を食べることもなくなっていたが……
「いったいどこをほっつき歩いてるんだ」
戻ってきたら、久しぶりに叱ってやろう。それから、遅めの夕食を取りに出かけるのもいいだろう。
「まったく、難しい年頃だな……」
11
「では、七瀬さん、膝を立てて」
「はい」
ソファに腰掛けたまゆは言われた通りに膝を立てる。
ボタンをすべて外したワイシャツがはだけて、肌がほとんど露出する。
「脚を開いて……そう、そうです」
「実験だから」と白衣を羽織った鏑木はスチルカメラを三脚にセットし、まゆの性器を映している。発表用のスライドを作成するためだ。
さらに、実験記録用のビデオもセットする。
同じだ、とまゆは思う。カメラのサイズは小さくなったし、テープも使わない。画質も格段によくなった。
それでも、することは変わらない。
「これから平常時の女児性器を観察します」
ビデオに音声も残すために声を出しながら、鏑木はスチルカメラのシャッターを落とす。続けざまに。
「うっ」
その音に、まゆは肩をすぼめる。やはり、性器を接写されるのには慣れることができない。
「大陰唇を開いて、小陰唇および陰核を観察します――自分で広げてみてください」
「……は、はい」
まゆは性器を広げる。神村にもよくやらされた――くぱぁ、だ。
「本日は、被験者自身が指で陰核を刺激することにより、性器の状態がどう変化するかを観察します」
「え、そ、そんな……」
「わたしが刺激したほうがいいですか?」
実験モードの鏑木の声だ。感情というものがない。まゆはすこし安心する。鏑木は変わってはいるが――変わることがない。
「……自分で、します」
まゆは覚悟を決めて、右手の中指でクリトリスに触れる。
まず、圧迫する。包皮の上からじわっと力をかける。
包皮の中の塊を意識する。敏感すぎる突起が刺激になれるように、押し込み、ゆるめる。
「あ……は……」
ほぐれてくると、包皮を前後に動かす。快感が大きくなる。
「膣分泌液の漏出が始まりましたね。充血が進み、興奮状態が観察できます」
鏑木が状況を説明しながら写真を撮り続ける。
「んっ、くっ、くふっ!」
クリトリスをいじめる手順は以前と変わらない。小五の時に神村に教わった通り。
ビデオに撮られながら、写真を撮られながら、するのも――同じだ。
だから。
「み、みえますか――」
自分から、ちゃんと、くぱあ、する。
「よく見えますよ――被験者は12歳、非処女。膣口から内部を観察しています。すこぶる健康――」
「ふっ、うっ、はぅ」
中指が愛液で濡れ、クリトリスの表面を滑る速度が上がる。
どんどん濡れていくのがわかる。
「きもち……いい……」
恐ろしいほど感じる。たぶん、神村の話をしている最中から、この部分をいじりたくて仕方なかったのだ。
まゆ自身の欲望が指を動かしている。
うるんだ視界に鏑木が映る。鏑木は写真を撮り、まゆの状態をビデオ映像とともに音声で記録している。
このデータはきちんと整理され、学会で発表されるのだ――ほんとうに――? こんなエッチなことが――?
まゆは、大きな視聴覚室のような場所で、まゆの性器がスクリーンに大写しになっている状況を想像した。
そこで、偉い先生たちがうなずいたり、メモを取ったり――そう思うと恥ずかしいというより笑い出したい気がすこしする。
同時のゾクゾクする。まゆのおまんこが、いっぱいの男の人たちに、見られて……
「被験者は性的興奮状態にあり。膣壁の収縮を観察――七瀬さん、失礼します」
鏑木がまゆに近づく。
「あっ……あああ……」
まゆは、ひくんッ、と腰を跳ね上げる。鏑木が――たぶん、指だろう――まゆの膣に入れたのだ。
「断続的な収縮を確認。膣内は湿潤――」
ヒクヒクで、ヌルヌル――ということだ。
「あひっ! イっちゃう! せんせ、イっちゃうっ!」
まゆはほとんど鏑木とセックスしている気になって、両手で宙をかき抱いた。
抱きしめられたい。ぎゅっとされながら、イキたい。
「もう少し我慢してください。勃起した陰核亀頭のサイズを測ります」
鏑木は、まゆの膣に指を埋めて奥を刺激しながら、小型の物差しをクリトリスに当てる。
「5ミリ……ほぼ平均値か、やや小さめでしょうか。でも、機能に問題はないようですね」
言いつつ、鏑木はその部分をつまんでやや強めに引っ張る。
まゆの意識が白く飛ぶ。
「いひっ!?」
身体が勝手に反応して、腰が動く。
「被験者がオーガズムに到達」
鏑木は言いつつ、膣に埋めた指を高速ピストン運動させる。Gスポットを連続的に刺激。
「ひぃいぅ! いひっ! ひぅっ! いいいいいぅうううう!」
まゆの意識は白に塗りつぶされたまま――
性器からしぶきが飛ぶ。
「被験者のオーガズム反応――適切な表現が見つからないので俗称で――潮吹きを観察」
まゆは、イキつづけていた。自分が自分でないような――解放されたような――感覚。
「以上、被験者M、12歳――記録終了」
鏑木はビデオカメラの記録をいったん終了させる。
それから、録画スイッチを入れ直す。
「ここからは個人的な撮影です」
ソファの上で息もたえだえなまゆを見下ろしながら、鏑木は言う。
「たしか、七瀬さんは、その弁護士の方と、おしりで<練習>していたそうですね」
朦朧とした意識でまゆは鏑木の股間に目をやる。ズボンの股間が明らかに膨らんでいる。
「分析するに、七瀬さんはその行為でストレスを解消していたと思われます。つまり、七瀬さんの精神的な安定のためには適度な性行為が必要なのです」
テキドなセイコーイ、まるで何かの呪文だ。
「わたしは医師の立場で、七瀬さんには治療が必要だと判断します」
鏑木が冗談を言っている。口元の笑みでそうとわかる。あの鏑木が冗談を――いやそれよりも、あの股間の様子は、つまり――まゆの身体に反応しているということ。
それが信じられない。まゆのことはあくまでも実験材料として扱っていたのに――
「わたしも人間で、男ですよ」
そうだ、そんな当たり前のことも、まゆはすぐに忘れてしまう。そして自分にとっての逃げ場所にしてしまう。神村のこともそうだ。
神村も人間で。男で。まゆのことを好きでいてくれて。何でもわがままをきいてくれたのも、まゆのことを気持ちよくしてくれたのも、神村が便利で都合のいいオジサマだったからではなくて。
まゆとセックスしたかったからだ。そういう形で、まゆのことを愛して……くれたのだろう。
「かぶらぎ……せんせいも……わたしと……したいですか……?」
まゆは自分のその部分が火照るのを感じていた。
さっきよりも濡れている。疼きがとまらない。
どうしようもない。「かわりの場所」では満たされない、飢え。
ソコに埋めて欲しい、モノ。
「れ、れんしゅうじゃ、なくて……せ、せっくす……したいですか……?」
声が震える。たしかにまゆは一線を越えた。行為としてはずいぶん前に引き返せないところまで来ていただろう。
だが、今、まゆが越えたのは、心のレベルでの「一線」だ。
「あなたが、したいのなら」
鏑木はズボンのジッパーを下ろす。
屹立した巨大なペニス。沢のモノとも神村のモノとも違う。
「これで、治療してあげますよ」
巨大な注射器だ。亀頭の鈴口にカウパーが盛り上がっている。
混乱とともに興奮しているまゆは、それをつい目で追ってしまう。
「チリョウ……」
わかっている。「レンシュウ」を言い換えただけで、本質は変わらない。
神村との過ちを鏑木相手に繰り返すだけだ。
だが――
そうした方が、きっと、良明にとってもいいのだ。
あの社長さんとの関係を考えたら、まゆなどいない方が――
良明のことを思い出しても、まゆの疼きは消えなかった。いや、むしろ募った。
「かぶらぎ、せんせい……」
まゆはソファの上で身を起こした。それで、自分の意志で行動することを示した。
「……して、ください……」
その部分を広げる。
代わりの場所ではなく――
「せっくす、して……ください」
「かぶらぎ、せんせい」了
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