ゼロの使い魔・ルイズのねこ耳にゃんにゃんNIGHT! (1)
1
水精霊騎士隊は、トリステイン王家からもお墨付きをもらった近衛隊だ。しかしながら、その性格は限りなくボランティアに近く、隊の運営資金そのものはさほど潤沢ではない。
基本、騎士はすべて貴族だから、王家のために働くことはむしろ名誉なこととされ、自腹を切ってでも、というのが建前なのである。
しかし、近衛隊にはそれなりの余禄がある。「巡回」と称して地域をまわれば、その土地の有力者には歓迎され、酒肴のもてなしを受けることができるのだ。地方の有力者にしても、王室とのパイプは喉から手が出るほど欲しいのだから、「近衛」の若様たちをおだてるにしくはないと考える。
いわば、利害の一致である。
もちろん、地方には、はぐれモンスターが出没することがあるから、そういった脅威を取り除いてやる、という任務もあるにはある。
その週末も、隊長であるギーシュの発案で、魔法学園から地方に遠征し、巡回をとりおこなうことになった。
副隊長のサイトも、立場上つきあわざるをえない。それに、はぐれモンスターが出現した時に、一番戦力になるのはやはりサイトなのだ。
しかし、ルイズはご機嫌ななめだ。ここのところ大きな戦いがなく、巨乳メイドが目障りではあるが、まあまあ平穏な日々で、この週末あたりはサイトに思いっきり甘えてやろうと考えていたアテが外れたからだ。
「何よ、せっかくあたしが……ちょっとは言うこと聞いてあげてもいいかな……って思っていたのにっ!」
巡回の準備にかかりきりのサイトの邪魔をするわけにもいかず、一人、ぶーたれるルイズは気分転換のために散歩に出た。
小川が脇を流れ、木陰の涼しい小径である。鳥の声を聞きながら、ルイズは少し頭を冷やした。
「考えてみれば、サイトは王国のためになるお仕事をしているのよね。それを邪魔するのって、やっぱり貴族としてもよくないわ。だいいち、地方巡回ったって、ほんの一週間くらいのことだし……」
帰ってきたサイトを優しく、かつ上から目線で、ねぎらってやるのが主人のつとめではないかしら……などと考える。
と。ルイズはふと耳をそばだてた。聞き覚えのある男女の声――ギーシュとモンモランシーだ。みれば、二人、手をつないでデートの真っ最中だったらしい。「だったらしい」というのは、今や口論モードに入っていたからだ。
口論、といっても、モンモランシーが一方的にギーシュを責めているようである。
「なによ、遠征って! 知ってるのよ、私! 今度行くラベール地方って、平民にも美女が多いって有名な土地柄らしいじゃない!」
「そ、それは誤解だよ、モンモン。ぼくは別に、野に咲く可憐な花たちを摘みに行くためだけに巡回を計画したわけじゃなくて……」
言いつつ、墓穴を掘っていることに気づかないのがギーシュである。
「やっぱりナンパする気マンマンなんじゃない!」
「だから、ちがうって! ラベール地方には巨乳が多いとか、そんな評判、全然知らないし……」
バチーン、と大きな音がして、ギーシュがぶったおれる。どうやら痛烈な張り手を食らったらしい。
「知らない! ギーシュのバカ!」
つづく
* 「ゼロの使い魔」目次へ戻る
Information
Trackback:0
Comment:0