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結局、ギーシュは魔法学園に残ると言いだし、巡回にはサイトが隊員を率いて出かけることになった。モンモランシーと仲直りしたいギーシュがサイトにその役を押しつけたのだ。すでに任務として届け出をしてしまっているし、その地方では騎士隊を待っている。ドタキャンするわけにはいかないのだ。
「しょうがねえな……まあいいけど」
それなりに巡回の仕事に意義を感じているサイトはその役を引き受けた。
騎士隊の準備も整い、いよいよ出発しよう、という時だ。
「バカ犬! ちょっと待ちなさい!」
騎士隊の行く手を桃色ブロンドの美少女が白馬にまたがって通せんぼをした。
もちろん、ルイズである。聖女の制服ともいえる純白のローブを身につけ、杖を携えている。まるで戦場に向かおうというようなりりしさで、思わずサイトも見とれてしまったほどだ。
「な……ルイズ、何だよ、その格好。見送りにしては大げさすぎるぜ」
「誰が見送りよ。見て分からないの? わたしも同行するの」
小さな胸をついとそらしてルイズが言う。
「おいおい、遊びに行くんじゃないんだぜ? 途中は天幕で泊まったりしないといけないし、モンスターが現れるかもしれないんだぞ?」
「ふん、こっちはとっくにお見通しよ。言っておきますけどね、ラベール地方の……きょ、きょ……きょっ……な野に咲く花とよろしくやろうたって、そうは問屋がおろさないから!」
「はあ? 何言ってんだお前」
きょとんとするサイト。もちろん、巨乳うんぬんはギーシュが巡回先を選ぶ際に選んだ条件で、サイトはそんな事情は知らない。
それでも、ルイズの決意が変わらなさそうなのは悟っていた。だいたい、このわがままな貴族のお姫様は、こうと言ったら退かないのだ。そこがいいところでもあるのだが。
それに、ルイズの魔法もそれなりに戦力になっているし、ルイズと一緒に天幕に泊まったりするのも気分が変わって楽しそうだ、と思い直す。
「わかったよ、一緒に行こう」
今度はルイズがきょとんとする番だった。
「え? ついていっていいの?」
「いいも何も、一緒に行きたいって言ったのはそっちだろ? それに、おまえと週末離れるのはちょっと寂しいなと思っていたし」
「え? あの……その……ほんとうに?」
真っ赤になるルイズ。
「本当だって。この巡回の仕事がはいらなかったら、久しぶりに一緒に休日を過ごそうと思ってたんだぜ」
「サイト……」
いつの間にか、サイトとルイズは馬に乗ったまま近づいていた。周囲にピンクのハートが飛び交う。
「あー、オホン! サイト……副隊長どの、そろそろ出発を」
マリコルヌが丸い顔にあからさまな憎悪を浮かべて、咳払いをした。
他の隊員たちも同様だ。黒いオーラを放ちながら、副隊長とその恋人を睨んでいる。
「あっ、そ、そうだな、じゃ、じゃあ、出発!」
慌ててサイトは号令を出した。
マリコルヌは、自分の前を進むサイトとルイズをジト目で見つめていた。
結局、同行することになったルイズは、サイトと同じ馬に乗るとだだをこね、今やちゃっかりタンデム状態だ。
今もぴったり密着して、何やらこそこそ話し合っては、笑い声をあげている。
(なんだよ、これ。お前ら、デート気分かよ、ふざけるな、一応仕事だろ!)
マリコルヌは口には出さず愚痴り続けた。ルイズが馬を置いて、サイトと同乗することになったため、ルイズの荷物――やたらと大きな包み――はマリコルヌが運ぶはめになってしまったのだ。
そのマリコルヌと同意見らしい、「彼女いない」騎士たちと、視線を飛ばして意思疎通をする。
一人の少年が大きくうなずく。馬にくくりつけた荷物をぽんぽんと叩く。そこにはワインの大瓶がくくりつけられている。巡回は、いわば無礼講の旅。各地方で饗応を受けるだけではなく、自分でも酒や肴を準備しているのだ。
(今夜は、やけ酒だ)
マリコルヌとそのグループは誓い合うのだった。
つづく
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