8 魅惑の妖精亭、よみがえるの巻
翌日の昼下がり――シエスタとタバサ、さらにはキュルケ、テファまでを引き連れて、ヒラガ・サイトはトリスタニアのチクトンネ通りにやってきていた。
「まったく、ミス・ヴァリエール一人で何ができるというんでしょうか!」
自分の親戚の家のことでもあり、メイド姿のシエスタは腕まくりせんばかりだ。
「一人で空回りしていないか、心配」
とはタバサだ。そうなのね、とは側にいるイルククゥ。彼女にドラゴンに変身してもらったおかげで、早く戻ってくることが出来たのだ。
「ま、あの子もそれなりに経験積んでるみたいだから大丈夫じゃない?」
キュルケは楽観的だ。
「……街って、なんだか怖いです……」
ティファニアは帽子で耳を隠しながらビクビクしている。街ゆく男達の視線がことごとく自分の胸元を狙っているのを「エルフだと疑われている」と勘違いしているらしい。
いずれにしろ、トリステイン魔法学院が誇る美少女たちそろい踏みだ。あと、モンモランシーなどもいるが、さすがにギーシュの手前、酒場を手伝わせる相談をするわけにはいかなかった。
とにもかくにもこれだけ強力な助っ人を連れてきた以上、問題は解決するだろう。心配なのは昨日一晩、ルイズが問題を起こさずしのげたかどうか。いつもの調子で暴れて店を壊してでもいたら目もあてられない。
『魅惑の妖精亭』が見えてきた。いつものように、閑古鳥が鳴いて……いない。
店にはなんと入りきらない客で行列ができていた。
「ウソだろ……?」
「それがウソじゃないのよ、あたしも驚いてるの」
ジェシカが忙しそうに立ち働きながら言う。助っ人の少女たちもすぐさま給仕にかり出されていた。
「昨夜の売上もものすごくて、記録よ、記録。なんでも新人の妖精が最高だって一日でクチコミで広がって、お客さんが殺到中ってわけ」
「それ……ルイズがやったんですか……?」
「みたいよ? あの子、いったいどうやって常連さんの心をつかんだのかしらね?」
首をひねるジェシカ。
「それで、借金のほうは……?」
「そうそれ! それも驚いたんだけど……!」
ジェシカが大きな声を出す。むろん、満員の店内の喧噪のなかではそんなものは問題にならない。
「お肉追加なのね~」
ビスチェを身につけて陽気にイルククゥが走り回ったりしている。
「手伝い、ほんと助かるわ。厨房はシエスタに任せておけば料理の質も上がるし、あの胸の大きな子たちもすぐに常連さんがつきそうだし」
キュルケにテファのことだろう。キュルケは手慣れた様子で妖精をしっかりこなしているし、初々しいテファも何とか仕事をこなしている。とにかく胸が凄いし。
「あの髪の青い子たちもそういう性癖のファンがつきそうだしね」
寡黙なタバサとやかましいイルククゥはいいコンビだ。特に会計の段になると、タバサが素早く割り勘の計算をするので重宝がられているようだ。
「あっと、借金の話ね」
ジェシカが話題を戻す。
「昨夜ね、お客に混じってオーナー候補が偵察に来てたのよ。普通の商人っぽい格好してね。それで、ルイズのことものすごく気に入ったらしくて、ルイズが当面のあいだ店を手伝うという条件で、借金をチャラにしてくれたの。魅惑のビスチェも返してくれたのよ!」
「えっ!? 借金が……チャラに?」
「おかげで父さんも一気に元気を取りもどして、あと何日か休めば復帰できそうなの!」
ジェシカは嬉しそうに言う。
「ルイズもひと月くらいならいいって言ってくれたから……あ、もちろん優先度の高い仕事があったらお休みしていいって言ったわよ、でも、ルイズの方から――」
このお仕事、気に入ったから、しばらくやってみたいわ――だから、サイトには学院に帰ってもらっても大丈夫だって伝えて――
と言ったらしい。
「な、なんだよ、それ! ひとがせっかく……!」
サイトはムッとする。サイトのことはともかく、窮地をきいて助っ人に来てくれたシエスタたちに言うべきセリフではないだろう。
「ルイズはどこです? ちょっと文句をいってやらなきゃ!」
「ルイズなら、屋根裏部屋にいるわ。いま、ちょうどオーナー候補、というかスポンサーが来てて……あっ、サイト、屋根裏は関係者以外立ち入り禁止なの!」
サイトはジェシカの制止を振り切って、上に続く階段へ――
「ほほぅ、これが魅惑のビスチェか。ルイズによく似合うな」
ワイングラスを手に目を細めたのは中年の恰幅のいい男だ。昨夜、ルイズに一番最初に高額チップを払い、どんどん相場をつり上げた商人ふうの男だ。この男が魅惑の妖精亭の実質的なオーナーだ。スカロンやジェシカはいわば雇われ経営者にすぎない。
その男の視線の先には、黒の過激なビスチェを身につけたルイズ。
すでに頬が染まっているのは一杯飲んでいるためか。
スレンダーな身体に貼り付くような魅惑のビスチェ。短いスカートから覗く脚は黒のタイツで覆われていて、太腿部分だけが生足だ。
その部屋はかつてルイズとサイトが過ごした部屋だ。ベッドもそのままだ。だが、それ以外の調度類はそっくり入れ替えられている。椅子もテーブルもピカピカの新品だ。今日になって運び込まれたものらしい。いわゆるVIP用の個室に改装されていた。
そこには、商人風の男のほか、数名の着飾った男たちがいた。だが、なぜか仮面で顔を隠している。
「彼らは私の友人で、中には貴族もいる。いずれも名士たちだ。彼らにきみのことを話したら、ぜひ一緒にあそびたい、というのでね」
「まあ、お客様がた、光栄ですわ」
ルイズは優雅にスカートをつまんであいさつをした。もともと育ちはいいルイズだからそういう仕草はお手の物だ。
そして、チラリと覗く下着はフリルのついた極小パンティ。
客たちの息づかいが荒くなる。
魅惑のビスチェの魔法の力もあるだろうが、ルイズの放つロリータ・フェロモンにすでに股間をビキビキにさせているようだ。
「チップは5倍掛けからスタートだ。さて、なにから遊ぶ?」
他愛ないゲームのメニューが客たちに配られる。
だが、罰ゲームはいきなり過激だ。
ディープキスや下着見せ、ゴムぱっちんはむろん、最初からまんこくぱぁや、乳首いじり、指マン、手コキ・フェラまである。
さらには「ネコミミプレイ」に「女王様プレイ」、「おしっこプレイ」までも――
膣中出しとアナル中出しは3倍増し――
そして、
「恋人の目の前で陵辱プレイ」は10倍だ。
メニューを手に客達がひそひそ話。
「これはなかなかおもしろい趣向がありますな」
「だが、順を追って、少しずつ……くくく」
「いやいや、いきなりメインディッシュもおもしろい」
「いずれにせよ、極上の妖精、たっぷり可愛がってやりましょうぞ」
コツ、コツ、コツ――
階段を上がってくる足音が聞こえてくる。聞き覚えのある音。
ルイズの耳たぶまで赤く染まる。
ちいさく深呼吸をして、ベッドに片膝を乗せ、男たちを振り返る。
誘うような腰つきで――とびっきりに可愛い声で。
「今日もたっぷりルイズとあそんでくださいね、お客さま?」
-「ルイズとあそぼう! 魅惑の妖精亭へようこそ」 おしまい -
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