■12
イエスロリータ、ノータッチ。
という格言を知らない少年たちはパニックに陥った。
女子へのイタズラなんて日常茶飯事だ。スカートめくりやパイタッチなんていつものこと。美耶子や珠子、宇多方姉妹は美形すぎるが故に(あとはオカルト的に)標的になることは少ないが、でも、まあ、それに似たような……似たような……
「未成年の女子への性的暴行は特に重罪だ。いくら未成年でも実刑はまぬがれんぞ」
だって、宇多方が裸で、すげーえろくて、みんなおかしくなって――そんなことほんとはするつもりじゃなかったんで――
「ここへ少女を連れてあがって何をするつもりだったんだ?」
言い訳のしようがない。全員ペニスを丸出しにして――いまはしぼみきっているが――ギンギンにさせていたのだから。ましてや股間を押さえて悶絶している田中にいたっては先っちょくらい入れていたかもしれない。
悶絶しているとはいえ、田中の表情は人生最高の快感を得た瞬間のまま固まっている。
「警察署に同行してもらおうか。親御さんにも連絡して、来てもらわないとな」
親を呼ばれると知って、少年たちは泣きはじめた。いろいろなことが壊れてしまうと悟ったのだ。そして自分たちがおこなったことの重大さも。
「勘弁してください……」
「ぼくらが悪かったです……」
「それは我々にではなく、被害者の少女に言いたまえ。彼女にわびたところで君たちの罪は変わらないが、反省の度合いによっては情状酌量の余地も――」
刑事が言い終わるより早く、少年たちは美耶子の前に土下座した。悶絶していた田中も意識をとりもどし、訳もわからないままそれにならう。
「宇多方、ごめん!」
「ほんとにごめん!」
「おれたちのこと、許してくれ!」
「あ……ごめん……すぐに出しちゃって」
そう言った田中は他の少年からこづかれた。
美耶子は無表情だった。快感に泣きむせんでいた少女の面影はない。そこにあるのは冷徹な怒りと復讐の意志だけだった。
「あんまり宇多方のこと、かわいくて!」
「そうだ、おれたちおかしくなっちまったんだ、あんな格好見せられて――」
「やめようとおもっても、できなかったんだ! あの匂いをかいだとたん――」
美耶子の頬に朱がさす。恥じらいではなく、怒りの色だ。
「ほんと、ごめん! 宇多方の――いや、宇多方さんの言うとおりになんでもします!」
「おれも、約束する――いえ、します! なんでも言うことをききます!」
「ぼ、ぼくも、約束するよ、美耶子ちゃんの奴隷になってもいい!」
「えと……おれも……なんでもする……します!」
全員が額を地面にこすりつけ、誓いの言葉を叫んだ。
美耶子は目を閉じた。無言で静かに呼吸する。断罪の言葉を練っているようにも見え、赦しを与えるために心を落ち着けようとしているようにも見えた。
誰もが固唾をのんだ。警官の制服に身を包んだ者たちも、刑事らしき人物も、同じだ。
全員が美耶子を注視していた。
そして、美耶子は目をひらいた。
唇が、うごく。
「どっきり大成功~!」 どこからともなく「大成功」と書かれた看板を出した美耶子は、それを掲げてかわいらしく微笑んでいた。その表情は紛れもなくお茶の間で人気の美少女子役・宇多方美耶子のものだった。
ファンファーレがどこからともなく――スピーカーが仕込んであったらしい――流れてきた。
同時に、警官ふうの制服を脱ぎ捨てたエキストラが拍手し、刑事風の男が拳銃を取り出し引き金を引いた。万国旗が銃口から飛び出してきた。
つづく
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