マリコルヌは信じられない思いだった。
目の前の光景に。
桃色ブロンドの美少女が顔を真っ赤にして、自分でスカートをたくしあげている。
白くて細い脚の、その付け根部分と下腹部を覆う小さな布があらわになっている。
ようするに、パンティ丸見え、だ。
スカートをたくしあげているのは、ここトリスティン魔法学院に通う子女でも家柄的にはかなりの高位に属するヴァリエール公爵家の令嬢、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ましてや、トリスタニア王国の女王の親友で、王位継承権さえ授けられている。
まあ、胸は残念だし、性格も決していいとはいえない。
しかし、ロリ属性があれば200%陥落間違いなしの童顔の美少女ときている。
だが、マリコルヌ自身の好みはさておいても、口説きたいとはハナから思わない。なにしろ、彼女は――
マリコルヌの友人であり、かけがえのない戦友、シュヴァリエ・サイト・ヒラガの恋人なのだ。
つまり、目の前で、友人の恋人が自らの意志でマルコリヌにパンツを見せてくれているわけで――
頭が真っ白になりそうだ。
ええと。
どうしてこんなことになったのかな。
マリコルヌは必死で思い出す。
そうだ。あの記録水晶を拾って――
1
その記録水晶は、ウンディーネ騎士隊の従軍用の天幕の中に紛れ込んでいた。
遠征から戻って、倉庫に戻す際に梱包を解いたところ、ぽろぽろといくつかこぼれ落ちたのだ。
ふつう、記録水晶はかなり大きなものだが、それらは、短時間用のごく小さなもので、そのため今まで発見されなかったらしい。
とりあえず、拾ったものはポケットに入れておくことにしているマリコルヌは、それもポケットにおさめ、そのまま忘れてしまった。
それから幾ばくかの時が過ぎ、その記録水晶を再生する気になったのは昨日のことだ。
記録水晶というのは、魔法の力で、術者が見た光景、聞いた音を特殊な水晶に封じ込めたものだ。
暗号をかけずに記録されたものは、水晶再生機で再現することができる。水晶再生機というのはガラスの板に映像を浮かばせる魔法仕掛けの道具で、トリステイン魔法学院の図書館には誰にでも使えるよう自習室に備え付けてある。
難点は、撮影した本人以外が再生すると画質や音質は落ちてしまうことだがそれはしょうがない。
まあ、ろくなものが映っているはずがないが、そのときのマリコルヌはいつものように学園の女生徒にデートの誘いをし、玉砕した直後だったので、ほかにやることもなかったのだ。
人気のない図書館の自習室で、適当にえらんだ水晶球を再生機に放り込む。
すると、おぼろに映像が浮かび上がった。
映像は、前回の遠征のものだった。
泥酔した一泊目の夜の様子だ。
例によって、もてない男共が天幕にこもり、痛飲していた。
でてくる話題は女の子のことばかり。童貞どもの性的妄想のぶつけあい。
こんなものを記録してどうなるというのか。
マリコルヌはうんざりして再生をやめようとした。
と。
『にゃん、にゃん、ご主人様、大好きだにゃあん』
甘い声とともに、肌もあらわな少女があらわれたではないか。
それは――顔はおぼろでよく見えない。術者も泥酔しているから、はっきりとは映らないのだ。声も、雑音がひどくて、冒頭の一声以外、ほとんど聞きとれなかった。
だが、女なのは、長い髪と、くびれた腰、わずかに張り出したヒップでわかる――いや微妙か。なにしろ肝心の胸がない。女装した少年かもしれない。
その少女か、少年かは、天幕のなかで踊り始めた。おしりを突き出して、振りたくる。そいつも酔っ払っているらしく、へべれけな動きだ。
酔漢たちはおもしろがってやんやの喝采だ。その中にはマリコルヌ自身の姿もある。
「なんだ、こりゃあ? こんな芸したやついたっけか?」
マリコルヌは首をひねる。なにぶん、あの夜のことはろくに覚えていない。とにかくひどい二日酔いで、天幕のなかが精液の匂いでやたら臭かったことだけが嫌な思い出として残っている。泥酔して大センズリ大会にでもなったのか――
「けっこう、色っぽいな」
踊り自体は拙いが、腰のなまめかしさはホンモノの女の子みたいだ。
こんな芸を持っているやつが隊にいたなんて。この腰つきだったら、男でも、ことによったら一回お相手願いたいかも、とさえ思う、くらいにはマルコリヌは飢えている。
マリコルヌは楽しくなってきて、べつのかけらを再生する。
つづく
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