[土曜日] ユーザーイベント(秋葉原) その2
美耶子は見せパンを会場に投げた。大歓声、争奪戦――会場が確かに揺れた。だが、それ以上の騒ぎにならなかったのは、パニックを起こしてしまうとイベントが間違いなく中止になるというギリギリの分別が働いたからだろう。
ネット上でもコメントが爆発した、大半は「現地組うらやましすぎ」というものだ。
美耶子はステージを歩き回りながら歌ってみせる。まるで本物のアイドルのようだ――いや、いま美耶子はアイドル歌手を「演じて」いるのだ。美耶子の演技力はステージに本物のアイドルを出現させてしまう。
♪ 「はいてる? はいてない!?」
はいているとか はいてないとか
どうしてそんなこと気にするの?
こんな薄い布きれ一枚で
わたしのことを縛らないで
はいてるわたしはとってもおしとやか
お嬢様みたいに気取って歩くわ
意地悪な風がスカートめくっても
軽く手でおさえてスキップするの
はいてないわたしはもっと自由だわ
男の子みたいに駆け回りたい
短いスカートなんかじゃ守れない
秘密の花園見つけてね
今日のわたしはどっちかな?
はいてる? はいてない!?
今日のわたしを当ててみて!
はいてる? はいてない!?
それは、あなた次第なの
間奏に入るとソロダンスパートだ。
「WONDER12」のユニットなら、五人のメンバーが入れ替わり立ち替わりで踊るところだが、ここは美耶子一人だ。
『はいてる? はいてない!?』
観客が完璧にタイミングを揃えて合いの手を入れる。
美耶子はくるりとターンして、青白の縞パン――シルクの薄手のやつ――を見せた。
「はいてるよ!」
おおおお、と盛り上がる会場。見せパンという伏線をあらかじめ張ってあるから、この生パンは嬉しいはずだ。
しかも青と白の縞パンは「おにいちゃん大好き!」でのパンチラシーンの定番だったし、ファンにとっては思い出深いアイテムのはずだ。
『はいてる? はいてない!?』
2回目のソロダンス。
美耶子はくるっと背中を向けて、おしりを突き出した。いつの間にか、おしりを覆う部分をふんどしのように細くして、おしりの山が露出するようにしている。
「はいてるったら!」
いや、ケツ見えてるし。
会場絶叫、動画上のコメントは悲嘆に染まる。「なぜ俺はあそこにいない!?」
『はいてる? はいてない!?』
3回目のターン。
ステージの奥に移動した美耶子はすっと腰をかがめ――
「脱いじゃった!」
青白のストライプの小さな布をかざして見せる。
おい、そこまでやるか――やるよな、美耶子なら。
会場のボルテージはMAXを超えていた。
美耶子はパンティを会場に投げ込むモーションをして、ストップ。
「これは、生放送を見てる人にプレゼントするね。応募方法はファンクラブのホームページで!」
おい。何も考えてないだろ。あのページを管理してるのはおれなんだぞ。どうやって応募と抽選やりゃあいいんだ。
とまれ、生放送組にも生きる希望がわいてきたらしい。コメントにも希望に満ちたものが増えてきた。
そうこうするうちに4回目のコール。
『はいてる? はいてない!?』
「もちろん!」
美耶子はステージの最前部まで進み、自分でスカートを盛大にめくり上げる。
両脚を開いて立っている、美耶子のまっすぐで細い脚の間に、会場内のすべての視線が集中する。
「はいてないよ!」
美耶子のワレメが、500人のファンの前で開帳された。ネット配信では一万人を超えていたろうか。
歓声、狂喜、興奮――ポジティブな感情の塊が会場全体に、ネットワークのそこかしこで、爆発する。
この瞬間、確かに世界のある一部は、一切の哀しみや苦しみ、人を傷つけるネガティブな感情から解放され、幸福感、高揚感のみに満たされていた。
会場も、ネットも完全にひとつになっていた。
最後の、一番大切なコール。センターの美耶子のソロダンスを呼び込むコール。
『はいてる? はいてない!?』
ものすごい大歓声が――
美耶子はたぶんこの瞬間、イッてたと思う。これだけの視線、一体感、そして、愛され、求められているという実感。
それはエクスタシーにつながる。
極まった美耶子はバレリーナさながらに脚をピンと伸ばし、立ったまま開脚ポーズをとる。
これ以上はないというくらいのくぱあだ。正面カメラに向かって、完全にワレメが開き、膣口まで見えている。クリトリスも尿道孔も。肛門ももちろん。
「もうパンツなんかはかないよ! みんな、大好き!」
会場は歓喜の声に包まれ、「生きてて良かった」の大合唱がとどろいた。
生配信でもカメラに向かってのフルくぱあのおかげで昇天者が続出した。
実際、やばいところだった、イッてしまった美耶子を回収し、イベント会場裏のクルマに移動した。
あのままだと、美耶子は自分で観客の中にダイブしかねなかった。もしそんなことをしていたら、興奮の極みの観客たちに輪姦されていたかもしれない。いや、意外に丁重に扱われた可能性もあるが――
とまれ、すっきりした顔をして寝息をたてはじめた美耶子を眺めながら、この事態をどう収拾するか頭を悩ませるおれであった。
まあ、後日談的には、「お兄ちゃん大好き!」のDVD&ブルーレイボックス・リパッケージ版はバカ売れした。発売記念イベントの様子をおまけディスクにして添付するようにしたからだ。購入済みのユーザーにも行き渡るように、そこはパブリッシャーが頑張ったということもある。
あのイベントはファンの間で「伝説」となり、会場に居合わせた500人はその目撃者として仲間内から羨ましがられる存在となった。
おそらく今後も似たようなリパッケージ商法が行なわれることだろう。その際に美耶子がイベントに引っ張り出されても、あまり派手なことはしないように言い含めておくしかない――無駄だろうけど。
おつかれー、またね!
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