「ノーパン始球式」
子役の仕事は幅広い。役者の仕事がもちろんメインだが、アイドル的な歌の仕事もあるし、バラエティ番組のMCやひな壇出演、情報番組のアシスタント、各地の観光大使や、新製品のキャンペーンガールなどなど……
そんな諸々の仕事の中には、スポーツ関係もある。もとより美耶子は身体を動かすのが大好きなタイプだから、そういう仕事には積極的だ。
そんな折、プロ野球の始球式、という仕事が舞い込んできた。
正確には美耶子が出演しているドラマとのタイアップだ。テレビ局つながりである。
ということで、横浜スタジアムである。
横浜ベイスターズの本拠地で、中華街やみなとみらいといった観光地にも近い。
近年、ファンが増えているそうだが、その日も超満員だった。土曜日ということもあるのかもしれないが。
始球式というのは、試合が始まる前のセレモニーだ。ゲストがマウンドに立って、ボールを投げる。アイドルや女優が投げるときはだいたいはキャッチャーまで届かないものだが、ノーバウンドで届かせるとそれだけで拍手喝采となる。スポーツ新聞でも「ノーバン始球式」という見出しが躍るほどだ。
「ぜったい届かせるからね!」
美耶子も超張り切っていた。
「ぜったい、ハリさんにアッパレをもらうんだ!」
たしかに十歳の子役がノーバウンドでキャッチャーまで届かせれば、ちょとした話題にはなるだろう。日曜朝のテレビ番組の名物コーナーで採り上げられる可能性はある。
「特訓もしたからね!」
たしかに、つきあわされてキャッチボールをしたなあ。
美耶子のやつ、意外に本格的なフォームで投げていた。
「まずは野茂!」
トルネードかよ。
「次は牧田ァ!」
サブマリンかよ。
「最後は則本ォ! 二桁奪三振日本記録ゥ!」
美耶子、おまえパ・リーグファンなのか? てゆーか、時事ネタを挟むのやめなさい。
野球経験がない女子がボールを投げるときは、上体だけを使ってしまいがちで、身体が泳ぐかたちになり、ボールに力が伝わらない。だが、美耶子はネットで動画を見てフォームを研究していた。
しっかりステップして、軸足に体重を乗せている。肘の使い方は天性のものを感じるほどだ。
だが。
コントロールは絶望的だった。一球たりともストライクはおろか、キャッチャーが捕れる範囲に球は来なかった――それが昨夜の特訓の状況だった。
これじゃあ、アッパレどころか、「ノーバン始球式」の見出しも難しいだろう。
いよいよ本番だ。
3万近い大観衆だが、コンサートではそれ以上の動員を経験している美耶子だ。物怖じはしない。ベイスターズのユニフォーム(女の子向けのピンクの可愛いデザインだった)に、白のミニスカート。
マウンドに立った美耶子はちっちゃかった。側に立っているのがプロ野球選手だがら、さらに対比がすごい。
「さあ、宇多方美耶子ちゃん、ノーバン始球式を目指して特訓したそうです! 果たしてノーバン始球式、達成なるか!?」
スタジアムDJが煽る。
スコアボードの大型スクリーンには美耶子が大写しになっている。さすがに少し緊張しているのか、表情は硬い。
だが。
「いくよ! みててゆういち! これがわたしなりのノーバン始球式だよ!」
ゆったりとしたワインドアップ。思わぬ本格的なモーション始動に野球ファンたちが「おぉ」と唸る。
そして、左足を高々と上げる。
「これは――このフォームは!?」
叫ぶスタジアムDJ、どよめくスタンド。
おれもアニメで見たことあるぞ、これ、たしか、「巨人の星」の、あの、足を上げてビシィーンってなるやつだ。
しかも、だ。
「はいてない――!」
「はいてないぞぉおおおお!」
「うおおおおおおおおおお!」
ものすごい歓声があがる。
美耶子のやつ――パンツはいていやがらねえ。ミニスカートだから、足をあんなに上げたら、丸見えだ。
現に、スコアボードの大画面には、美耶子のワレメがアップで抜かれている。たしか、今日はドラマタイアップ局で、地上波全国生中継だぞ……
美耶子はゆったりと足を上げたまま、きゅっと腰をひねり、ワレメの中を見せつけるようにしながら――投げた。
奇跡か。
これまで一度たりともストライクゾーンに行かなかったのに――ヘロヘロ球ながら、ボールはキャッチャーまでギリギリとどい――たかと思ったが、突如目の前でJS子役のワレメをみせられたキャッチャーは呆然としており、ボールの捕球を忘れて後逸してしまった。バッターもバットを振るのを忘れ、審判もコールを忘れていた。
その後、球史に残る大乱交が起こったのはいうまでもない。美耶子のワレメを至近距離で見た男達が理性を保てるわけがないしな……
その日のスポーツニュースに出た見出しは、もう想像できるだろう。
そう、もちろん、「宇多方美耶子、ノーパン子宮好き、大性交!」だ。
ちゃんちゃん
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