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超世紀莫迦 WEBLOG

□ 男優のおしごと!  □

うたかた外伝シリーズ 男優のおしごと!


     0.プロローグ

 子役ブームが席巻する芸能界。
 子役による濡れ場の演技が、今や映画・ドラマの華となった。
 かつてのキスシーンのような位置づけで、初潮前の少女の性器挿入シーンが使われている。
 初潮前の少女への膣内射精は「生殖行為ではない」。したがって、「猥褻ではない」。という論理が成立している。嘘のようだがそれが事実だ。
 こういった「理屈」はこの国ではよく編み出される。
 この国の法律では賭博を禁じている。だが、パチンコという「遊戯」で勝つと特殊な景品と交換できる。その特殊な景品は日常生活では何の役にもたたない。価値もない。だが、その景品を欲している店が「偶然」パチンコ店のすぐ近くにあって、買い取ってくれるのだ。全国にあるすべてのパチンコ店で、この「偶然」が起こっている。賭博を禁止する法律があるなかで、警察はこれを「合法」としている。それによってパチンコという巨大産業は回り続けている。
 ソープランドもだ。この国ではやはり売春を禁止する法律があり、風俗営業店でも本番行為は禁止されている。でも、客と嬢が個室で「恋に落ちたら」セックスしてもいいじゃん。その恋が九〇分とか一二〇分で終わったんならしょうがないじゃん。
 そういう理屈がいくらでも成立する国なのだ。もちろん、警察は時々、ソープランドなど風俗店にガサ入れをすることがあるが、それはちょっとしたガス抜き、「野放しにしてはいませんよ」というアピールのためだ。地下カジノの取り締まりにいたっては「商売敵」を潰すための行動にしか見えない。
 芸能界にいたっていえば、こういった建前のオンパレードだ。
 数十年前にも少女ヌードのブームはあった。アンダーヘアがご禁制だった時代だ。陰毛のない子供の性器は、いやらしくない、という理由で、おおっぴらに写真集が発売され、テレビにも子役の少女のワレメがごく普通に映っていた。
 そこから少し時間がたつと、逆に無毛のワレメのほうがいやらしい、ということになった。すると、今度はヘアヌードが大ブームとなった。
 禁止の基準が「猥褻」という、曖昧な、絶対的な基準がないものだけに、時代の状況によってまるで変わってしまうのだ。
 ポルノ映画にせよ、ある時期までは「前貼り」をして性器を隠した上で、絡む「ふり」をしていたのが、アダルトビデオ全盛になるとホンバンが当たり前になった。「モザイクで隠していれば本当にセックスしているかどうかわからないので問題ない」という理屈だ。
 法律も、猥褻の解釈も、「どうにでも変えられる」ものになってしまったのだ。
 要は時代が何を求めているか、なのだ。
 現代のトレンドは「少女の性」だ。
 むろん、少女との性行為は違法だ。合意があっても、十二歳以下の少女との性交は強姦として裁かれるのは言うまでもない。
 少女との性交が許されるのは、あくまで「虚構」の世界でのことだ。
「殺人」はもちろん犯罪だが、映画やドラマで描かれる「殺人」は犯罪ではない。それと同じように、「フィクション」をまとえば、少女とのセックスシーンだって表現可能なのだ。
 そして、それが虚構として描かれる限り、撮影現場で何が起こっているかは問題ではない。
 この少女の性描写が爆発的にウケた。もう誰も想像できないレベルでそれは浸透した。
 この時代、十二歳以下の子役の少女たちが、それまでの人気女優たちを駆逐する勢いで露出を加速させている。
 テレビをつければ、あたりまえのように少女の裸が映る。恋愛系のドラマでは、子役のカラミが一度もない方がまれだ。
 プリキュアに憧れていた幼女たちは、今やテレビでセックスしてみせる人気子役たちを崇めている。
「美耶子ちゃんや愛菜ちゃんみたいになりたい」というのが今時の幼女たちの夢なのだ。
 子役のオーディションにはどんな端役でも応募が殺到するという。
 むしろ親のほうが必死らしいとも聞く。
 だが、ここに皮肉な現実がある。
 子役ブームを支えているのは、実のところ、子役としっかり絡むことができる男優なのだ。
 子役との絡みは決して簡単な仕事ではない。
 未成熟な肉体を傷つけないように扱わなければいけないし、大半の子役は知識もテクニックも乏しい。つまり、ヤッてさほど気持ちの良い相手ではない。
 トップクラスの子役たちは大人の女性をはるかに上回るテクニックを持っているとされるが、誰もが「宇多方美耶子」や「芦多愛菜」や「奔田望結」になれるわけではない。
 文字通り、経験の乏しい、小便臭い小娘とカメラの前で絡まなければいけないのだ。
 正直、こうした仕事を完璧にこなせる男優は多くはない。
 そのため、一部の役者に仕事が集中する。
 たとえばおれのような――

     第一話 子役の頂点
    
     1

 永瀬一朗、それがおれの芸名だ。本名も同じだけれどもな。
 だが、この名前を映画やドラマのスタッフロールで見かけることはほとんどないはずだ。せいぜい、セリフがひとつかふたつかしかない役くらいしかあてがわれることがない、典型的な「売れない役者」だからだ。
 役者では食えず、アルバイトを掛け持ちしながら、なんとか続けてきた。
 芝居が好きだった。演じることに取り憑かれていたといっていい。
 そのためには家庭さえ顧みなかった。その結果、女房にも逃げられた。おれの先輩の売れっ子役者とデキて、出て行ってしまったのだ。
 定職にも就かず、劇団から劇団を渡り歩きながら、いっこうに芽が出なかったのだから、見限られてもしかたないだろう。
 女房は同時におれの宝物を奪っていった。
 娘だ。
 名前は香利奈。今年9歳になる。
 おかっぱ頭で、派手なところはないが、女房の目鼻立ちを受け継いで、少したれ目がちだが、くりっとした眼をして、たいへん可愛い。このへんは親の欲目もあるだろうが――おれに見た目が似なかったのは幸いだった。(おれは演技派の役者だからな……見た目はたいしたことない)
 不倫をしたのは女房の方だったのに、娘の親権はおれには残らなかった。おれの収入が不安定だったせいだ。
 面会権を確保するのがやっとだった。そのかわり慰謝料も何もかも諦めた。表面上はおれがDV亭主で家にカネを入れないために女房が娘を連れて逃げ出し、かねてから相談に乗ってもらっていたおれの先輩役者に保護を求めた――そんなふうになった。
 先輩の役者はそれなりの人気者で、カネも持っていたから、優秀な弁護士を使ってきたのだ。
 逢えるのはひと月に一度。女房側の弁護士立ち会いの元でだ。制限が厳しく、自由に遊びに行くこともできない。
 寂しい思いをさせているが、それでも香利奈に逢える日はおれにとって最高の幸せだ。香利奈もおれと逢う日を心待ちにしているらしく、面会時にはおれから離れない。
 気の利いたお土産ひとつ買ってやることさえできない情けない父親のおれの話に、眼をキラキラさせながら聞き入っている。
 役者の現場のこと、有名な芸能人と競演した――というか本当は現場で目撃しただけだが――時のこと。アイドルや人気子役の話などにはことに興味があるようで、食いつき気味に質問してくる。
 おれはそれに適当に(盛って)答えてやるのだが、そうすると、香利奈は熱っぽくおれを見つめて言うのだ。
「すごいね! おとうさんはすごいんだね! そんな有名な人たちといっしょにお芝居して――出番は少なくても、ずっとおとうさんのほうがお芝居うまいもんね!」
 香利奈はおれがたまに出たテレビや映画は欠かさずに見ているそうだ。元女房は「そんな三文役者の芝居など見るな」と言ってくるのだそうだが――
「ぷろでゅーさー?って、偉いひとたち、見る目ないよね。あの人より、おとうさんのほうがお芝居うまいのに――見る目ないね」
 あの人、というのは元女房の現在の夫――売れっ子役者んもおれの先輩のことだ。いちおう、家では「パパ」と呼ばされているようだ。
「でも大丈夫、『パパ』ともうまくやってるよ。ちゃんと、それっぽく振る舞うし――うん、お芝居だけど。だって、おとうさんの娘だもん」
 そして、香利奈は唇を尖らせて言うのだ。
「香利奈が大きくなったら、女優さんになって、おとうさんと競演してあげる。そうしたら、みんなおとうさんのお芝居にびっくりするよ、ぜったい!」

 そんなふうに会話をしたのは香利奈が7歳の頃くらいだろうか――そして、おれは香利奈との面会権も失った。香利奈が正式に先輩と養子縁組して――香利奈自身がおれとの面会を拒むようになったからだ。おれの口座には手切れ金として500万円が振り込まれ――情けないことにそれを切り崩しながら暮らす生活が続いていた。

 その間に芸能界はすっかり様変わりした。
 空前の子役ブームの到来だ。
 そのあおりで大人の役者の役割も変わってしまった。いかにメインの子役を輝かせられるかが求められている。なにしろ、視聴率を持っているのは彼ら子役だし、劇場映画の客入りやその後の映像ソフト、グッズの売れ行きも、子役人気に頼っているのが現状だ。
 今や、どの作品でも、女児との絡みはあたりまえだ。
 絡みというのは、そのままの意味だ。
 ベッドシーン、もっとはっきり言えば、セックスシーンだ。
 子役と性交することを、今の役者は求められているのだ。
 それまで家庭的な雰囲気で人気だった男優が、カメラの前で少女をレイプする役を演じて、さらに売れっ子になった例もある。逆に、ワイルドなイメージで売っていた男優が、子役とのホンバンを拒否して干されたという話もある。
 子役とヤれなければ生きていけない。それが今の芸能界だ。
 おれのような仕事を選べない役者は、それこそ何でもやらなければいけないところだが、子役とのカラミはどうにも無理で、話があっても断ってきた。
 香利奈の存在だ。
 子役には香利奈と同じ年頃の子供も多い。そんあ子供相手とカラミはできない。それが演技だとしてもだ。
「いっちゃんもさあ、スタンドマンだったらいくらでも声かかんだろ? ガタイいいし、いいブツぶらさげてんじゃーん」
 親しくさせてもらっているAD(アシスタントディレクター)からはそんな風にも言われた。「いいブツ」って言われてもな。まあ、これまで裸になる仕事はいくつもあったから――カラミじゃなくて銭湯に入っている客の役とかだが――見られていても不思議はないんだろうが。
 それにしても、今の子役ブームにあって、男優不足というのが不思議だった。そういうことをしたい連中ならいくらでもいるんじゃないか?
「子役とヤリたいだけのバイトならいくらでも集まるけどな、芝居ができるやつなんざほとんどいないよ。しかも、肝心な時になると縮こまっちまうヤツばかりだ。マジ、人手がたりねーよ」
 そう言われれば納得できなくもない。カメラの前で演技するというのは――それができるというのは、やはりひとつの才能だ。ましてや、自分の肉体をあるがままカメラやスタッフの前でさらすっていうのは、理屈じゃなく、役になりきらないとできたもんじゃない。その人物になり、芝居の時間と空間にはまりこんで、その人物が自然に為すであろうことを為す――それが性行為であれば、それを仕遂げる――それができるのは、やはり役者という生き物だけだ。
 それでも、おれには無理だ。おれには香利奈がいるから――その顔が思い出されてしまった時、同年代の少女に対して性的な行為をすることはできないだろう。いくら脚本にそう書かれていたとしても。
 だが、いち役者として、子役の演技力には興味があった。なぜ、ここまで短期間で人々の心を掴んだのか。
「だったら、一度、現場見に来なよ、テレビドラマなんだけどさ。エキストラの仕事もあげるから」
 ADがそう誘ってくれた。
「このドラマの主演女優は見ておいたほうがいいと思うよ。今の子役ブームの震源地にして最先端、宇多方美耶子だからな」


      2

「はい、じゃあ、リハおねがいしまーす」
 撮影現場の空気は、ゆるやかなようで、しかしピンと張りつめている。
 スケジュールや予算に余裕があるプロジェクトなんて本当に希だ。どこでも時間もカネも切迫しているのだ。
「美耶子ちゃん、じゃあ、カメラリハだけど、きつかったら言ってね」
「あ、大丈夫でーす」
 バスローブを羽織った子役がベッドの上に座って元気よく手をあげる。
 宇多方美耶子、かのAD氏が言ったとおり、現在の子役ブームを牽引する、断然トップの子役だ。
 まだ十歳の小学四年生。ちょっと癖のある長い髪をカールさせ、今日はおでこを出している。
 絶世の美少女というほどではないが、クラスでならいちばん可愛い子かな、という絶妙なバランス。そして、よく動く表情に、笑うと覗く八重歯――彼女の出演するドラマを見ると、その役柄にかかわらず、いつのまにかファンになってしまっているといわれる、不思議な魅力の持ち主だ。
 その体当たり演技はいつも世間の話題を集め、子役の表現の限界をつねに押し広げている。言い換えると、いま、日本の芸能界、映画界の表現は、この少女が「どこまでやるか」にかかっているといっていい。
「じゃあ、連続ドラマ『LINEで恋しよ♪』の第一話、ヒロインが行きずりの男相手に処女を捨てるシーンのリハいきまーす」
 子役の濡れ場はドラマの見せ場だから、緊張感がいやます。
 おれは、通行人Aの役で出演(といえるほどではないが)した後、知り合いのADの厚意で見学させてもらっていた。基本、濡れ場は部外者立ち入り禁止だから、これは件のADが、おれをスタンドマンの世界に誘う手だと承知していたが、飛ぶ鳥を落とす勢いの宇多方美耶子の芝居を直に見てみたいという欲求には勝てなかった。
「男優さんもスタンバイオッケイでーす」
 おれと同年代――三十代の役者がバスローブ姿でセットに入ってくる。
 顔は現場で見かけたことはあるが、名前は知らない。おれと同程度の格の大部屋役者だ。おれとの違いは、先方は子役相手の濡れ場がこなせる、ということだろう。
 その一点で、おれは「通行人A」で、向こうは「主演女優の相手役」となる。テロップにも名前が載るだろうし、宇多方美耶子の相手を務めたとなれば、他の子役の相手役にも指名されるだろう。
 子役相手の役者にもやはり「格」というものがあるようで、宇多方美耶子のようなトップ子役とヤッた、というだけでその後のギャラも跳ね上がるらしい。
「じゃあ、リハ始めまーす」
 美耶子と男優がベッドに腰掛ける。
 ここまでの話はこんな感じだ。
 母の再婚で義父ができた小学生の美耶子(役名も美耶子だ)だが、その義父とお風呂に入っているとき、怪しい雰囲気になってしまう。その際はセックスには至らなかったが、それがきっかけで美耶子は性に目覚めてしまう。自慰を繰り返し、学校でもガマンできず、授業中まで下着に指を這わせる始末。そんな美耶子の変化に気づいた同級生あやかは「LINEで相手を見つけたらいいんだよ」と援交をそそのかす。誘いに乗ってしまった美耶子はLINEで処女を散らす相手を募る――という展開だ。
 タイトルが軽い割に内容はシリアスだ――
「――ほんとに小学生なんだね、びっくりしたよ」
 セリフのやりとりが始まる。リハだがカメラも回している。
 ラブホテルの一室を模したセットで、数台のカメラが二人を追う。
 予算がふんだんに使われていることがわかる。セットの作りもしっかりしているし、スタッフの数も多い。高視聴率が約束されている宇多方美耶子主演ドラマならではだ。
 おれの胸の奥がちくりと痛む。二十年近く業界にしがみついているのに、ここではおれはただの通行人Aだ。あんな数のカメラに追われたことなんかない。これだけの数のスタッフに凝視されることも、ましては数百万、いや数千万人もの視聴者に演技を見てもらえることなんか――
「うん、四年生だよ――ちっちゃくてごめんね?」
「へっへっ、おじちゃんにはそっちの方がありがたいよぉ」
 男は変態っぽく笑った。ロリコンおやじという設定だからだろう。だが、軽薄さが鼻をつく。
「おじさん、ちっちゃい子、好きなの?」
「そりゃあ、好きさ。なにせ、美耶子ちゃんみたいに肌がぷにぷにで触り心地いいからねぇ」
 言いながら、男は美耶子のバスローブをはだける。その下は全裸だ。
 ちいさな膨らみがあらわになる。男は美耶子の乳房とはいえないようなささやかな隆起を指でつまみ、揉みしだく。
「んっ……いたっ」
 顔をしかめる美耶子。成長期の乳首は敏感なのだ。
「ああ、ごめん、ごめん――ぺろぺろして直してあげる」
 男は美耶子をベッドに押し倒し、ローブを完全に脱がして、美耶子を生まれたままの姿にすると、真っ平らな胸に舌を這わせはじめる。
 ピンと立った、だが子供サイズの豆粒のような乳首を男が音をたてて吸いあげる。かなりがっついた印象だが、そういう演技プランなのだろう。だが、リハでもここまでするんだな。
 美耶子は困ったようなくすぐったそうな表情だ。
 男はそれに気づかず、美耶子の乳首を口に含み、強く吸い上げる。
「あーっと、キスマークはつけちゃだめよぉ……本番までとっといてよぉ……」
 オカマっぽいおっさんの声が入ってくる。このドラマの総合ディレクターの桃山園氏だ。宇多方美耶子とのコンビでこれまで数え切れないほどのヒット作を生み出している。子役業界では今や押しも押されぬ巨匠だ。
「す、すみません、つい」
 男は唇を離し、おびえたようにわびる。
「いいけど。リハでもちゃんと美耶子を感じさせないとだめよ。そうやって信頼関係を築かないと、本番でもいい絵にはならないわ」
 さすが巨匠。なんだかすごくいいことを言っている感じがする――やらせている内容はアレだが。
「はいっ! 美耶子ちゃん、よ、よろしくね」
「あ、大丈夫でーす。あの、このシーン、美耶子、まだ何も知らない設定なので、じっとしてますけど、とっても気持ちいいので、もっとしてくださいね」
 男優のテンパり具合に比べて、宇多方美耶子の落ち着きようはどうだ。男優に自信をつけさせることも忘れていない。
「マジで!? うれしいなー、この撮影、決まった時から、すごく楽しみにしてたんだ」
 どうやら、男優は普通に美耶子ファンだったようだな。そりゃあ、がっつくだろう。



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Date:2018/02/21
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