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超世紀莫迦 WEBLOG

□ 男優のおしごと!  □

うたかた外伝シリーズ 男優のおしごと!(4)


「時間が無いから、もう一気に流れで撮っちゃうからね。リハなしのぶっつけよ」
 もとの脚本だと、ホテルに入った美耶子と援交おじさんは、まずシャワーを浴びながらフェラで顔射、ベッドに移動して本番中出し、という形になっていたが、ホテルに入り次第すぐにカラミが始まるというように変更された。先に撮った男優には申し訳ないが、シャワーシーンのOKテイクもボツになったわけだ。まあ、設定も役者も変わってしまったのだから仕方ない。
 緊張感がものすごい。
 スタッフもピリピリしている。濡れ場は一度撮り出すと止められない。一気呵成に撮りきらないと活きた絵にならない。それは殺陣に似ていると思う。斬られ役としてならかなり場数を踏んでいるおれだ。うまくいった殺陣には必ず流れがあった。斬る者と斬られる者の間の呼吸が通う、流れが。
 さらにいえば、いきなり男優が変わり、脚本にも手が入った。その男優にしても名もない大部屋俳優だ。上手くいく要素が何ひとつとしてない。
 おれをさかんに口説いていたADにしてから、ずっと顔を青くしている。
「いっちゃん、頼むよ、まじで……おれのクビかかってるんで……」
「そんなこといわれてもなー、おれなんかハメられたくさいし。最初っからこのために呼ばれたっぽいし」
 別にこのADに含むところはないが、まあなんとなく気にくわなかったのでちょっと虐めてみる。
「いやっいやいや、まじで、いっちゃんのこと、見学に連れてくれば? って言われただけだし、こんな展開になるなんて――」
「やっぱり宇多方美耶子か」
「いや! いやいやいや!」
 この慌て振りは図星だろうな。もともとこのAD氏は悪人ではないし、むしろ、おれにとってはちょこちょこ仕事を紹介してくれる恩人であるとさえ思っている。
「もういいよ、気にしなくていいよ。てゆうか、おれのこと売り込んでてくれたんだろ、ありがとな」
「はあ……マジよろしく、いっちゃん」
 胸をなで下ろしながらAD氏は去っていく。安心したようだ。
 ただ、わからない。なんでおれなんだ? それに、香利奈しか知らないはずのLINEのIDを美耶子が知っていた訳は?
 いずれにせよ、この仕事をやり遂げてから、訊くしかないようだ。


 切迫した空気の中で撮影が始まった。脚本B案っていうのはいちおう目を通したが、正直そのままではなんとも、という出来だった。そりゃあ、途中で放棄されたもので、読み合わせもされていないレベルだ。ストーリーラインは頭に入れた上で、出たとこ勝負だ。もともとちょい役専門で、覚えなきゃいけない長さのセリフなんて滅多にもらったことがない。
「はい、スタート! よろしくねえ、お二人さん」
 桃山園がスタートさせる。
 おれと美耶子は親子のように手をつないで部屋に入った。美耶子は学校の制服(名門小学校という設定だ)、おれは背広姿だ。おれのサイズに合う衣装があるかちょっと心配だったが、問題なかった。その気になれば魚屋にもなれたが、設定にしたがって会社役員らしいダークスーツにした。
 大きなベッドを見て、美耶子が固まる。おれの放つ緊張感がそうさせたのだ。
 きっと美耶子のプランでは、明るく誘うパターンもあったはずだ。あっけらかんとLINEで男を誘い、軽い気持ちで処女を散らす、そんなパターンも。
 だが、おれは美耶子の手を強く握って、まるで拘束するように離さなかった。そのムードが美耶子に「罪悪感をともないながらここに来た」心情に醸し出させたのだ。
「悪い子だ」
 おれは言った。吐き捨てるように。
「こんなところまで、悪い大人と来るなんて――きみは悪い子だ」
「ご、ごめんさい――で、でも」
 美耶子はおれの目を見て、悟ったようだ。聡いな。脚本ではここから、行為に入るまでのセリフのやりとりがある。さきほでのリハでもあった。他愛ない会話だ。だが、そこの会話がここの芝居では一番大事なのだと、美耶子にも伝わったようだ。
「座りなさい、そこに」
 美耶子を突き放すように、ベッドの方に押し出した。よろけながら、美耶子はベッドに身体を預けた。腰から下の力が抜けてしまったかのような――
「なぜ、あんなことをしたんだ? きみは自分がしたことをわかっているのか?」
 美耶子の前に立ち、おれはおびえた少女を見下ろした。
「それは――」
「自分を大事にしろ、だとか、そういうことはおれは言わない」
「え?」
 言わないの?とでも言いたげだな。言わねーよ。
「どうせ、おれが相手を名乗り出ずとも、他のだれかで間に合わせたんだろう。おまえの処女などその程度のものだ。どうせ誰かのものになる。それをなしがしかのカネにかえたいならば、それはおまえの自由だ」
 美耶子は思考が追いつかないのか、口をぱくぱくさせた。大人に謎論理でやりこめられるJSを演じているのもかもしれないが――どっちだろう?
「おまえの価値はなんだ、美耶子? 子供であることか? 幼くて、可愛らしくて、無害で、無益で、無能であることか? 大人の愛玩物であることか? LINEで男を漁る行為じたい、そのすべてを肯定しているんだろう? 違うか?」
 おれは札入れから万札をつかみ出してばらまいた。もちろん小道具で、本来ならコトが終わった後、美耶子の寝顔の横にカネを置くという演出だったが、いかにも手続きっぽいと感じたので順番を変えてやった。
「ほうら、おまえの純潔とやらの対価はもう支払ってやったぞ。もうお前は目的を果たした。そうだろう? カネを拾って、とっととおうちに帰るんだな」
 一気にやりこめてやった。美耶子の行動原理を否定してやった。次は美耶子のターンだ。
 いっておくが、これらのセリフは100%アドリブというわけじゃない。脚本B案のラインにおおまかには沿っている。本当はもっと思いやりのありそうな、父親のような包容力を感じさせるセリフを吐き、そのままセックスするという流れだったが、それを裏返したのだ。この男は子供を憎悪し、同時に恐れている。自分の子供をうまく愛せなかったトラウマがあるからだ。そんなやつに大人な包容力を使いこなせるはずがない。優しい言葉を吐きながら性欲を満たすなんて器用な真似はできない。
 美耶子はおれをじっと見上げていた。その瞳には理解の色が浮かんでいた。
 彼女は言った。
「美耶子はね、お父さんが欲しかったの――それだけなの。お父さんになってくれそうなひとなら、たぶん誰でもよかったんだと思う……だから、ね?」
 美耶子は制服の前ボタンを外し、スカートを脱いだ。
 下着姿になる。
「美耶子をおじさんの娘に……してほしいの」
「ちょっと、待て、違う……おれは、きみにそういうことをさせたかったんじゃない」
 おれはうろたえた。いきなり王手を打ち込まれたような気分だ。だが、このうろたえている感じは演技としても間違いじゃない。だが――
 娘の顔が目の前に浮かんで――香利奈の顔が――
 言いたくない。言えない。だがこれは仕事で――作り事で――でも、自分にしかできないことで――ああ――
「娘に……? いいだろう、じゃあ、まずはしゃぶってもらおうか」


 脚本B案で美耶子を買った男――永瀬(どういうわけかおれと同じ名前をつけてやがった)は、娘と近親相姦をしていた挙句、妻から三行半をつきつけられ、娘とも会えなくなった。それ以来、LINEで知り合った小学生女児の「神」になっては、金品を与えていた。女児と肉体関係は持ったことはなかった。それまでは。
 そういう設定がありながら、ホテルに入ってスムーズにセックスを始めたら変だろう?
 お互い凶器のような言葉を投げつけあい、その断絶を埋めるために行為に及ぶ、というほうが自然だ。事前の打ち合わせの時間はなかったが、美耶子はうまくやってくれた。だが、少々うまくやりすぎたようだ。
 リアルにおれのトラウマが励起してしまったのだ。いっておくが、おれは香利奈と近親相姦などしていない。いっしょにお風呂にはいることはあったが、小さい時だけだ。
 だが、娘と同年代の少女を相手にすることを改めて自覚してしまった。
 つまり――
「勃たないわねえ」
 桃山園があきれたように呟くのを感じた。
 スタッフの失望感もだ。AD氏の顔はたぶん蒼白を超えているだろう。
 はぷっ、ちゃぷ……れろ、れろ……
 美耶子がおれのをくわえて舌を使っている。処女という設定から、最初はわざと拙くしていたようだが、おれのが大きくならないもので、テクニックを使い始めていた。
 亀頭のくびれを唇で締めつけ、鈴口を舌でたんねんにねぶったり、竿の裏筋を舐め上げたり、睾丸をくちにふくんで舌でマッサージしたり――風俗嬢も真っ青のテクニックを駆使してくれた。
 だが、半立ち以上にはどうしてもなってくれない。おれはロリコンではないが、刺激にはきちんと反応する。中折れしたことはかつて一度もない。それが――
 ちゅぽん、と美耶子がペニスから口を離す。いよいよ諦めたか――また、大口叩いておいてこれはない。
「ごめんね……美耶子、へたくそで……おじさんのこと気持ち良くさせてあげられない」
 美耶子は芝居を続けている。
 おれも最後まで応えないと――
「いや、いいんだ。おれこそすまない。きみにあんなことを言っておきながら――」
「おじさん、教えて……娘さんがどんなふうにやってたか――わたしに教えて?」
「なっ――」
 落ち着け、美耶子は設定に沿って芝居を広げているだけだ。ドラマの中の永瀬は娘と近親相姦をしていた。おれじゃない。役名としての永瀬がだ。だから、永瀬を気持ち良くしたい美耶子が娘のことを訊くのは不自然じゃない。だが――
「ね、娘さんの名前は? わたしと同い年くらいなんでしょ?」
 まずい。何か答えないと。演技勝負を挑んだのはこちらだ。アドリブを放り込んで美耶子の実力を試す真似もした。このまま押し切られるわけにはいかない。おれは――
「香利奈……きみと同じ学年で、四年生だよ」
 ああ、言ってしまった。香利奈の名前を。虚構の中に娘を放り込んでしまった。
「かりなちゃんだね? すっごく可愛い名前。きっと可愛い子だよね? たぶんわたしよりもずっと――」
「ああ、そうだ。香利奈は君よりずっと可愛い。君より小さくて肩も細くて――唇も――あっ」
 美耶子がおれのペニスをふたたび口に含み、舌をからめてくる。
「はぷっ、かりなちゃんが、しゃぷっ、したみたいに、れろ……やってみるね……」
 唾液を口腔いっぱいにためて、これまで以上に奥まで吸い込む。ばかな。
「ちがう……香利奈はそんなこと……」
 本当の香利奈はおれのチンポをしゃぶったりはしていない。いっしょにお風呂に入ったとき、おれの股間にぶらさがっているものを羨ましがったことはある。「ねーねー、パパ、どうして香利奈にはおちんちんがないの?」と訊いてきて困らされたことはある。男と女の違いを教えるため、お風呂に一緒に入ったとき、香利奈のワレメを開いたことが一度だけ。それはほんとうに一度だけだ。クリトリスが一人前に勃起していて、膣口が少し開いて処女膜のようなものが見えて、慌ててやめたことがある。「ママには内緒な」「うん、ナイショナイショ」と指切りげんまんをして――だが、離婚の際のおれの所業のひとつに「娘への性的虐待」が挙げられていて――。
「香利奈はもっとへたくそだったよ。すぐ、歯をあててしまって――」
「ほう? ほんはふうひ?」
 美耶子が八重歯を当てて来る。痛い。だが、その痛みが記憶を呼び起こす。香利奈の笑顔。永久歯が生えてきて、前歯が抜けた後のファニーな笑顔。その奥に赤い舌が蠢いて――ばかな。
 香利奈の口腔――そこにおれはペニスを――たった一度も想像しなかったと言えるだろうか?
 お風呂にいっしょに入るたび、香利奈のワレメやアヌスを見て、何も妄想しなかったと言えるだろうか?
 一度だけだ――本当に一度だけだったはずだ、現実には。だが、想像の世界では――?
 なんて、ことだ。
「おじさん……すごくなったよ。かりなちゃんのこと、思い出したんだね」
 おれは屹立していた。赤黒い肉棒が少女の肉体を求めて、そそり立っていた。

つづく



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Date:2018/04/28
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